不思議なお話No32 偶然の再会 その意味は?

  このホームページのプロフィールページの冒頭にも書かせてもらいましたが、僕は幼少の頃に読んだ冒険小説に感動するあまり、その主人公の真似をして天に「我に七難八苦を与えたまえ」とお願いしたことがありました。
 人生はそんなお願いをするまでもなく、困難と苦悩に満ちているというのに、まったく幼いとは言え馬鹿な真似をしたものです。それが原因かどうかは分かりませんが、僕はどうも渦中の人になりやすいのです。
  あれは僕が三社目の会社に勤めていたときのことです。ことのなりゆきから、僕はやむなく或るグループのリーダーを引き受けることになりました。そのグループというのが、一人の男の業務上横領の証拠をつかんで告発しようという物騒な目的を持っていたのですから、どうやら神様は幼い頃の僕の願いを聞き届けてくれたようです。
  仲間には営業部の人間もいましたが、主要メンバーは僕と同じ商品部に所属しておりました。商品部では半年に一度、棚卸しを実施し、その後不明品の追跡をするのですが、大半は帳簿の付け間違いや、棚卸し漏れで判明しました。
  しかし、どうしても見つからない不明品があり、毎回3000万円以上計上せざるを得ず、営業部から批判を浴びていましたが、商品部から見れば、原因を作っているのは営業部ではないか、という思いがありました。そして、誰もが一人の営業課長、毎夜部下を引き連れて遊び回るその男が怪しいと睨んでいたのです。仮に彼の名前を早川としておきましょう。
  目的は会社のため、働くみんなのためと思って始めたのですが、最初から逆風は避けられない状況でした。何故なら、早川課長はトップセールスマンで、しかも社長の大のお気に入りだったからです。
 社長に「自分の息子より可愛い」と言わせるほど、彼は有能でしたし、しかも口八丁手八丁でしたから、凡人ばかりの僕らのグループの手に負えるような男ではなかったのです。
  大切な仲間が次々と会社を去って行きました。早川課長に標的にされれば、彼の批判は、即社長にも囁かれていたのだし、会社に居づらくなるのは当然の結果でした。そして、何より心を剔(えぐ)られる思いだったのは、僕の大学の先輩で銀行の出向から役員になられた方が辞めさせられた時です。この先輩は良き理解者であるとともに協力者でもありました。
  僕は、彼が会社を去る当日、私物の整理をしている部屋におずおずと入って行きました。彼はこの一月というもの、ずっと僕の視線を避けていたのです。でも、僕は確かめずにはいられませんでした。だから聞いたのです。今回の退職の件は、僕に協力したことが原因なのか、と。
  彼の答えはこうでした。
「そうだとしても、俺は自分で判断して行動したのだから悔いはない。それより、銀行の上の連中から言われてきたことを全うできなかったことが悔やまれる。社長の暴走を押さえることが出来なかったのは、俺たち出向者の責任だ」
  彼はサムライでした。残ったのは阿諛追従の輩でした。

  3年ほど続いた早川課長のグループとの闘争はあっけなく幕を閉じました。そうか、そんな手もあったのかと思ったものです。証拠など挙げる必要などなかったのです。早川課長と同じように社長から可愛がられるようになった仲間の一人が社長に囁いただけで、事態は急転直下の結末を迎えました。
  その結果は引き分けです。早川課長は商品を扱えない部署の課長に横滑りし、僕は新たに立ち上げられた新規事業の課長に大抜擢されたのですから。その新規事業というのが、僕を含め誰もが就任を恐れていたお風呂屋さんでした。大抜擢は、言ってみれば社長の報復人事です。
 社長は僕にこう言いました。「私は、最初から彼が怪しいと睨んでいた。何故、安藤君はこれまで黙っていたのか」と。
  とは言え、そのときの経験があって小説「愛しのヤクザ」をものに出来たのですから、まさに禍福はあざなえる縄のごとしとしか言いようがありません。
 
  僕は、この会社をただただ意地で辞めました。意地を張っているときは、心を奮い立たせて肩肘張っている状態ですから、その勢いは誰にも止められません。仲間の誰もが引き留めましたし、翻意を促す電話ももらいましたが、僕は意地を通したのです。
  でも、ある晩遅く掛かってきた一本の電話が僕の意地をなし崩しにしたのです。それは早川課長からの電話でした。彼が「俺だ、早川だ」と名乗ったとき、僕は息を飲みました。それに気付いた早川も緊張したようで、二人を沈黙が包みます。そして、はしばらくして、こう語りかけたのです
 「安藤、辞めるなよ。せっかく二部上場したんだし、辞めるなんてもったいないよ。昔みたいにいっしょにやろう」
  この一言で、頑なだった僕の意地は吹っ飛んでしまいました。涙が堰を切ったように溢れました。あの時の感情の爆発を、僕はうまく表現出来ません。でも、それは生来泣き虫の僕の涙腺がいつものように緩んだだけではないのです。
  その時、時計の針がぐるぐると回って、時間が過去に引き戻されていました。そうです、彼が派手に遊び始める以前、二人は酒を酌み交わし本音で語り合った時代があったのです。

  それから20数年後、僕はましてもとほほの就職戦線真っ直中でした。そしてある怪しげな出版社のライター募集に応募し、与えられたテーマで原稿用紙30枚の小説を書き上げました。彼との闘争の日々を懐かしむ内容です。
 登場人物は、年上の営業課長の剣持(勿論仮名)、僕より先に辞めていった仲間二人、そして渦中の人物・早川です。僕はその小説の最後にこう書きました。
  『私より先に辞めた二人の仲間もそれぞれ独立して事務所を構えていた。この二人は早川と取り引きをしているらしい。剣持が、「あの二人は何を考えているんだ。プライドってもんがないのか?俺なら五割り増しで買うといっても、あいつには絶対に売らない」と毒づいていた。とはいえ、私にとってこの四人は我が青春の心の友であり続けている。三人では?いや、早川も仲間にいれなければならない。あの青春劇にはなくてはならない登場人物なのだから。』
  詳しくは書けませんが、僕たち3人(先に辞めた二人と剣持)は早川の犯行の動機も薄々感じていたし、その点に関しては彼に同情もしていたのです。でも、社会人としてそれはやはり許されるべきではないというのが僕たちの共通認識でした。
  でも、20年後、あの会社で起こった出来事を振り返って小説にした時、僕はようやく早川を心から許せたのです。早川は、家に電話してきた時点で僕を許していたというのに。でも、僕が過去の精算が出来た直後、その偶然が起こったのですから、やはりこの世は不思議に満ちています。

  その日、僕は昔懐かしい街を歩いていました。ふと思いついて、先に辞めてしまった仲間の事務所へ向かうことにしました。お昼近かったので一緒に食事でもしようと思ったのです。その時、僕は二時面接で担当者から30枚の小説を褒められた直後だったのでるんるん気分でした。
  そして昭和通りぶつかる直前、その歩道を見たことのある男が通り過ぎたのです。僕の視線は男の横顔を捉えました。幾分頬を緩めていました。微笑んでいるのかとも思いましたが、或いは苦笑いだったのかもしれません。
  何故なら、その人を射すくめるような眼光はそのままでしたが、頭のてっぺんに毛がありませんでした。「見られちまったか」と言う彼のつぶやきを聞いたような気がします。でも、その視界の端に僕を捉えていることは確かだったと思うのです。僕は思わず微笑みながら、その後ろ姿をじっと見詰めていました。

  この偶然、何か意味があるとはお思いになりませんか? もし、単なる偶然であれば絶妙なタイミングでした。その絶妙さが気になって、何か意味があるはずだと、その答えを考え続けていたのです。
 そしてつい最近、その意味することが分かり掛けてきました。ある場面で、社長が僕に言った一言を思い出し、或るアイディアがおぼろげながら浮かんできたのです。またいつもの妄想かよ、などとおっしゃらずに、是非お読み下さい。近々、書くつもりでおります。
  

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